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誰からも「できる!」と思われる──大人の語彙力ノート

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「はじめに」公開

 今、大人の言葉遣いが問題になっています。
 子どもっぽい話し方をしている、社会人らしく見えない。そして、そのことで損をしてしまう
 言葉の比重は、どんどん大きくなっています。
 これはもうすでに就活の時期からはじまっています。
 就活の時期に、あまりにも学生言葉、もしくは子どもっぽい言葉遣いをしてしまうと、この人は社会に出すにはちょっと不安である、その教育を担うだけの余裕がうちの会社にはないというふうに判断をされて不利になることもあります。

 また、メールのやりとりが仕事の中心になってきています。
 メールでの言葉遣いというのは、ちょうど書き言葉と話し言葉が混ざったような新しい文体の文章です。純粋な書き言葉と違って、メールには話し言葉のような気安さもちょっと含んでいる。
 ですから、日本語の中の話し言葉の伝統と書き言葉の伝統の重なる部分が、ちょうど今メールという形で非常に拡大してきているということなのです。

 ベースになるべきなのは、書き言葉です。しかし、今SNSなどで話し言葉で文をつくる傾向があるので、書き言葉にあるような“きちんとした大人の言葉遣い”というものが、失われつつあるように思います。きちんとした言葉遣いを練習する必要があります。

語彙力を「言い換え力」で身につける

 今必要なのは、語彙を増やすということ、語彙力を高めるということです。
 日本語の語彙は大変豊かです。
 ですから、一つの言い方だけではなく、「言い換え力」を身につけていく。こうも言えるし、ああも言える。あるいはニュアンス的にはAよりもBのほうがよりニュアンスが伝わるといったように、細かなニュアンスが伝わるように言葉をセレクトする。そういう力が語彙力というものです。
 語彙力がない人は、決まりきった言葉、あるいは子どもっぽい言葉しか使えません。そうすると、正式な場面での挨拶、たとえば結婚式、あるいはお葬式、あるいはみんなの前でプレゼンテーションをするとか、会を取り仕切るといった場面で恥をかくことにもなってしまう。そこで、フレーズとしてまずは使いこなせるようになってみようというのがこの本の趣旨です。

 フレーズというのは非常に実用的なものです。
 フレーズを一つ覚えておきますと、様々な場面でそつなく振る舞えます。たとえば、「このたびは誠にご愁傷さまでございます」という言葉が言えたら、お葬式のときにはひとまず落ち着けます。この場面ではこう言っておくと、その場がおさまるという便利なフレーズを使いこなせるようになることで、大人の言葉遣いが身につきます。

漢語、大和言葉で「語彙力」のあるフレーズに

 言い換える際に、できれば、フレーズの中に日本語としてこなれた大人の語彙が入っているといいでしょう。ただ言い換えるのではなくて、「語彙力」が感じられるフレーズになるといっそういいと考えます。
 語彙力を高めるには、二つの軸があります。
 一つの軸は漢語を身につけることです。漢語というのは中国から入ってきた言葉ですが、その比重は、実は日本語の中では非常に大きいものです。
 ですから、夏目漱石の時代ぐらいまでは、男性はほとんど漢語になじむことが勉強の中心だったわけです。それを素読という形でやる。それが勉強の中心でした。漢籍になじむというのが、教養があるということそのものだったわけです。

 漢語のほうは、コンパクトに言いたいことを伝えます。そういう意味では非常に凝縮力がある。意味を凝縮する力があるのは漢語のよさです。
 ですから、新聞などでは漢語が多用される。短い文章の中に意味をたくさん入れていくときには漢語が便利ということになります。

 それともう一つの軸が大和言葉です。大和言葉は、漢語が入ってくる以前から、成立している日本語です。やわらかないい雰囲気の言葉が多いので、挨拶などでは大和言葉が活用されていることが多い。そして、雰囲気や人間関係を和らげるのに役立つのが大和言葉のよさです。ひらがな表記が似合うのが、大和言葉です。

友達同士のおしゃべりだけでは「語彙力」は増えない

 今の全体の国語力、日本語力を各世代で見ていきますと、漢語の活用の力というのは、年々、落ち続けています。
 それは大きな流れとしては、漢籍というものを中心とした勉強から離れてきたということが一つ。もう一つは、そもそも活字離れが進んでしまっていることです。
 私は活字文化を推進する委員会に所属しているぐらいなのですが、新聞や書籍などで使われている活字、それが日本人の教養、あるいは頭の働きそのものを支えていると考えています。
 活字文化から離れてしまって、友達同士のおしゃべりだけでやっていると、語彙が増えない。語彙の少ない友達と延々と話しても、やっぱり語彙は増えない。500語ぐらいですべての用が足りてしまう。場合によっては、すごいとかヤバいなどと言っていたら、20語程度ですべての会話が終わってしまう。そうすると、新しい言葉に出会えないわけです。

 書き文字である活字というものを吸収しながら語彙を増やしていくことによって、日本語として使える語彙力を飛躍的に高めることができるのです。その際に、この言葉というのはこういう大本があるんだとか、この漢字はこういうふうな成り立ちなんだとか、そういうところも同時に知ることができると、記憶が定着しやすくなり、応用もしやすくなっていきます。
 ですので、この本ではフレーズとともに、語彙に注目して、語彙の広がり、応用の仕方というものも含めて、表現が豊かになるようご紹介しました。

 それにプラスして、現代の社会では、いわゆる外来語、カタカナ語というものも実際に機能しています。そういうものも完全に無視していると、会議の場面でも機能しませんし、野球の試合などでストライクを「良し」と言っていた戦前に戻るわけにもいきません。そこで、外来語は、日本語として定着したものは日本語としてみなすというスタンスを今回はとります。
 その一つの基準は、各種の信頼できる国語辞典に採用されているものに関しては、外来語を日本語として扱うというものです。たとえばイノベーションという言葉や、コンセプトという言葉は、もうすでに日本国語大辞典や広辞苑などにも採録されています。そういうものは使えるのが望ましいですし、すでに日本語で本語としてみなすというスタンスを今回はとります。
 その一つの基準は、各種の信頼できる国語辞典に採用されているものに関しては、外来語を日本語として扱うというものです。たとえばイノベーションという言葉や、コンセプトという言葉は、もうすでに日本国語大辞典や広辞苑などにも採録されています。そういうものは使えるのが望ましいですし、すでに日本語であるというふうに考えていいのではないかと思うのです。そういうものを完全に排除した純粋な日本語ということを考えるのもまた偏狭な考えだと思います。
 元々日本語というのは外来語である中国の漢字を音読みで読んで、そのまま取り入れたわけですから、柔軟性、雑種性というものが特徴でもあります。
 カタカナ語というのも、日本語の武器の一つですから、それも取り入れたいということで、現代の生活において非常に便利に使いこなせる、実用的な場面を想定しつつ、日本語としての語彙の奥行きというものを勉強できる、そのような本を目指してみました。
 なお、「何卒ご容赦くださいますようお願い申し上げます」などといった敬語は、二重敬語ではありますが、すでに一般的に用いられているものは、今回は良しとしました。
 この本を使って、大人の語彙力、大人の言葉遣いができるようになっていただければ幸いです。

著者・齋藤 孝
1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒。同大学院教育学研究科博士課程を経て、現在明治大学文学部教授。専攻は教育学、身体論、コミュニケーション技法。『声に出して読みたい日本語』(草思社)がシリーズ260万部のベストセラーに。NHK Eテレ「にほんごであそぼ」総合指導。著書に『質問力』『段取り力』『コメント力』『齋藤孝の速読塾』『齋藤孝の企画塾』『やる気も成績も必ず上がる家庭勉強法』(ちくま文庫)、『恥をかかないスピーチ力』『思考を鍛えるメモ力』『超速読力』(ちくま新書)、『新聞力』(プリマ―新書)『こども「学問のすすめ」』(以上、筑摩書房)、『大人の語彙力』(角川新書)等多数。

目次
第1章 「普段の会話で品よく見せる」語彙力ノート
第2章 「お願いする」ときの語彙力ノート
第3章 「言いづらいことを言い換える」語彙力ノート
第4章 「気持ちを伝える」語彙力ノート
第5章 メール・口グセで自分を下げない「同じ言葉の繰り返しをなくす」語彙力ノート
第6章 会議・打ち合わせで「できる!」と言われる語彙力ノート
第7章 「訪問・宴会・手紙で使える」語彙力ノート
第8章 センスが伝わる「季節の言葉」ノート

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