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「NFT」「メタバース」「web3」で未来はどうなるのか?

著者:伊藤穰一/提供:SBクリエイティブ

 最近、「web3」「メタバース」「NFT」という言葉を耳にする機会が増えました。一部のテクノロジー好きの人たちの間で盛り上がっているだけで、自分には関係のない話…そんなふうに思っている人も多いかもしれません。インターネットも最初はそうでした。
 僕は長年、インターネット事業への投資に携わり、1984年頃からモデム(インターネットの利用を可能にする装置)を使い、インターネットに親しんできました。1990年代初頭の段階では、インターネットについて話している人は、僕の周りでもほんの一握りでした。
 それがいまでは、誰もが片手に収まる端末(スマートフォン)を操り、常時インターネットに接続しているのが当たり前になっています。インターネットが誕生して、約半世紀。世の中に普及して20年余り。ほとんどの人にとって、「インターネットなしの生活」はもはや、考えられないでしょう。
 web3、メタバース、NFTも、そうなっていくとしたらどうでしょうか。「これがない時代があったなんて信じられない」「これを使いこなせない人はすごく困る」というほどの劇的な変化が、いま、新たに起ころうとしているのです。
 「働き方」「文化」「アイデンティティ」「教育」「民主主義」…大変化の波は、あらゆる領域に及びます。誰も、逃れることはできません。その大変化とは、いったいどのようなものか? それをわかりやすく解明する本として『テクノロジーが変える未来』(SB新書)を2022年6月に上梓しました。この記事では、その本の中から、「NFT」で私たちの文化がどのようになるのかを少し見ていきましょう。

「お金に替えられない価値」が可視化される

 2021年、デジタルアーティストのNFTアートが約75億円もの高額で落札されたというニュースが話題になりました。これを契機に、日本でもNFTに対する関心が一気に高まりました。
 ただこの時点では、NFTとは何なのか、よく理解されていなかったことも事実でしょう。NFTは、Non Fungible Token の頭文字。日本語にすると、「代替できない価値を持つトークン」となります。
 これまで、デジタルデータはコピーできるから、代替可能と思われていたのですが、ブロックチェーンの技術を使うことで、デジタルでありながら、代替できない、つまり、唯一無二な価値を持ちえるものが登場したということです。
 ブロックチェーンは、取引ごとに情報のブロックを作成し、そのブロックたちをチェーンでつないでトランザクション履歴を記録するという仕組みになっています。すべての履歴が連なっており、しかも誰でもチェックできるという透明性があるため、そのうち1つの取引情報だけを改竄するのは事実上不可能。というわけで、このブロックチェーンが、ビットコインやイーサリアムなど「通貨として使われる」という、もっとも高いセキュリティが求められる仕組みを技術的に担保しているのです。
 このように、もとは取引履歴を記録する仕組みとして生まれたブロックチェーンの技術を使って、デジタルデータが「本物かどうか」「誰のものか」などを証明するようにしたものがNFTです。つまり、「この世で1つだけしかない本物だと証明できるデジタルデータ」をつくれるのです。
 こう聞けば、まず真っ先にデジタルアートのクリエイターの間でNFTが広まったのもうなずけるのではないでしょうか。
 クリエイターが作品をつくり、OpenSea などのNFTマーケットプレイスに出品する。それを見て気に入った人が買う。取引額の2.5%は差し引かれてOpenSea に手数料として入る仕組みになっていますが、画廊などに出展してアートを販売するよりも、はるかにハードルは低くなりました。NFTによって「アーティストが自分の力で稼げる仕組み」が生まれたのです。

「かたちのない価値」が表現できるようになる

 たとえば、ここに2つのお守りがある、と想像してみてください。
 1つは神主さんがお祓いしたお守り。もう1つはお祓いされていないお守り。この2つは、物理的には同じ素材、同じサイズ、同じデザイン、見た目はまったく同じです。しかし信仰心のある人なら、前者しかほしくないでしょう。
 これが代替不可能、ノン・ファンジブルの意味するところです。そして、そんなノン・ァンジブルな価値を持つものだという情報を乗せて発行されるのがNFTであり、その情報の信憑性を担保するものがブロックチェーンです。
 つまりお祓いをしたことを記録するプロセスさえ間違えなければ、「このお祓い済みのお守りは本物か?」「本当に伊藤穰一のものなのか?」が鑑定書などではなく、ブロックチェーンの記録によって証明されるということです。
 企業の財務諸表で粉飾決算が可能なように、鑑定書の類も改竄が可能です。しかし先に述べたように、ブロックチェーンはシステムの性質上、取引履歴を記録した後に上書きや消去を行うことが事実上不可能ですから、実はこれほど確かな「真贋」「所有」証明はないわけです。
 「お祓いしてあるお守りがいい」、というのは、要するに「本物」を求めるということ、もっといえば「本物に触れたときの気持ち」を大事にするということです。
 物理的にどうかではなく、「本物であること」というかたちにならない価値、ノン・ファンジブルな価値をトークン化し、取り扱い可能にしたものがNFTです。本物を選ぼうと偽物を選ぼうと、物理的にはほとんど何も変わりません。変わるのは自分の気持ちです。NFTは、そんな僕たち人間の純粋な部分と相性のいいトークンといえるのです。

文化は「消費するもの」から「コミュニティに参加するもの」になる

 NFTによって、文化の本質は「消費するもの」から「コミュニティに参加するもの」へと変化しつつあります。
 Bored Ape のように、最初はNFTアートを販売していたところから、トークン(ApeCoin =APE)を発行・上場するなど、1つの経済圏を形成するほどの大規模コミュニティへと成長するケースも出てきています。
 こうして、アートは単に「所有するもの」から「コミュニティに参加するもの」、自分は単なる「お客さん」から「コミュニティの一員としてコミュニティを一緒に盛り上げていくメンバー」へと、性質が変わってきました。
 先日、僕は藤幡正樹さんというメディア・アーティストのNFTアートを買いました。その売り方というのがおもしろくて、1番から30番までの作品に藤幡さんがつけた価格を、それぞれの買い手の人数で割り、ひとりあたりの取引額が決まるというものでした。
 仮に1番の作品の価格が10万円で、1番をほしいという人が5人いたら、この作品はエディション1〜5までつくられ、取引額はひとりあたり2万円になる、という具合です。
 ちなみに、僕が選んだ作品の買い手は僕を含めて5人でしたが、800人以上の買い手がついた作品もあります。さて、これをどう考えるか。
 僕が買った作品を持っているのは僕のほかに4人ですから、800人も所有者がいる作品に比べると希少性が高いといえます。しかし、見方を変えれば、僕が選んだ作品には、あまり人が集まらなかったということでもあります。
 つまり、その作品のコミュニティは、たくさんの買い手がついた作品のコミュニティよりもかなり小さいのです。もちろん「好きで買った」というのがいちばん大事なのですが、NFT界隈では、ある程度、コミュニティが大きいことが1つのファッションになるため、そういう意味では少し寂しい結果になったともいえます。
 というわけで、この件、NFTアートのコレクターとしては、やや複雑な心境になったのですが、藤幡さんにとっては、その「複雑な心境」こそが作品の本質だというのです。
 作品の価値をはかる視点として、コミュニティの「サイズ」「元気度」があるというのは、NFTならではの特徴です。
 僕も普段、NFTアートを買うときには、そのアーティストのコミュニティが元気かどうかというのを1つの目安にしています。Bored Ape を買ったのも、コミュニティがすごく元気で、積極的に活動していて、楽しそうだったからでした。それがBored Ape の現在の成功につながっていることは間違いありません。
 もう1つ、コミュニティ形成の点で成功した好例を挙げるとしたら、2021年に大人気になったKawaii SKULL(カワイイ スカル)です。Kawaii SKULLは、発行するNFTアート数を1万点と最初に決めました。少な過ぎると有名になれない、しかし多過ぎると希少性が失われてチープになるため、1万点というのは、コミュニティサイズの設定としてちょうどよかったといえます。
 いま、その1万点のうち1つを買った人たちの間で、ゆるやかなつながりが生まれています。Kawaii SKULLをPFPにしているTwitter アカウント同士では、相互フォローし合ったり、「GM(good morning を指すweb3のスラング)」と呼びかけ合ったり、双方向のコミュニケーションが生まれています。
 同じアーティストの作品を持つ人たちの間でコミュニティができるというのもNFTアートの醍醐味といえるのです。

何をNFT化したらおもしろいか

 NFTとは何かと問われて、現時点で明確に答えられるのは、文字どおり「ノン・ファンジブル、つまり代替不可能なトークンである」ということくらいです。要するに、NFTは、まだ概念が定まっていないほど新しいテクノロジーなのです。
 需要が多様であるほどマーケットも豊かになりますから、今後、ウォレットを持つ人が増えるにしたがって、「どんなものをNFT化したら人はほしがるか」というアイデアも多様になり、さまざまなNFTが誕生していくでしょう。
 すでにあるNFTを分類して、「NFTとはこういうもの」と示すことは簡単です。しかしNFTはまだ誕生して間もないものであり、その可能性は未知数です。いかにいままでは見過ごされていた価値とNFTを結びつけていくかは、人々の目的意識やアイデアにかかっています。
 いくつか、僕の頭に浮かんでいるアイデアをシェアしましょう。

  • 映画制作のスタッフジャンパーのようにコミュニティメンバーにだけ付与される、転売不可なデジタルファッション。これを自分のアバター(メタバース内の自分の分身)が身につければ、そのコミュニティのメンバーであることを示すことができる

  • コミュニティに貢献した人に付与される、転売不可の「ありがとうNFT」。このNFTを持っているとコミュニティのイベントに参加できたり、コミュニティのデジタルプロダクトなどが贈られてきたりする

  • レストランで「よい振る舞い」をしたお客に付与される、転売不可の「上客NFT」このNFTを持っていると「一見さんお断り」のレストランでも予約がとれる

 こういったものなら、すぐにでもつくれるはずです。「転売不可」「譲渡不可」とは「お金に換算できない価値」を資産として扱うということです。幅広いジャンルに応用できます。
 僕のポッドキャスト番組でも、番組内で読み上げる相談メールを寄せてくれた方に番組オリジナルNFTをさしあげる、という試みをしています。いずれ、そのNFTを持っている人が参加できるイベントを開催するなど、コミュニティを盛り上げていきたいと考えています。

※本記事は『テクノロジーが予測する未来』の一部を再構成したものです

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本のおもな内容

序章 web3、メタバース、NFTで世界はこうなる
・Web1.0、Web2.0、そしてweb3は、どんな革命を起こしたか
・web3のキーワードは「分散」
・2022年はなぜ、「web3元年」になったのか
・web3とは、「トークン」が行き交う世界
・Web1.0は「読む」、Web2.0は「書く」、web3は「参加する」
・新経済圏で、社会問題が解決する
・「メタバース」はどこにあるのか
・世界はこれから、こうなる

第1章 働き方 ── 仕事は、「組織型」から「プロジェクト型」に変わる
・ビジネスは「映画制作」のようになる
・プロジェクトは「パズルのピース」を組み合わせるものへ
・DAOで、「株主、経営者、従業員」の構図が崩れる
・働き方は、勤め先に縛られなくなる
・仕事は、おもしろいことに「本気で参加する」ものになる
・報酬、配当、権利を「トークン」が司る
・仕事の「内容・場所・時間」からの解放は、格差是正につながるか

第2章 文化 ── 人々の「情熱」が資産になる
・ブロックチェーンで実現した真贋・所有証明
・「NFTバブル」の次に来るもの
・「かたちのない価値」が表現できるようになる
・アーティストが事業者になる
・文化は「消費するもの」から「コミュニティに参加するもの」になる
・「好きだから買う」ことにこそ意味がある
・「売れそうなNFT」だらけのウォレットはダサい
・何をNFT化したらおもしろいか

第3章 アイデンティティ ── 僕たちは、複数の「自己」を使いこなし、生きていく
・人類は、「身体性」から解放される
・ニューロダイバーシティ―「脳神経の多様性」が描く未来
・バーチャル空間の「自分の部屋」でできること
・web3で、人はふたたび「所有の主体」になる
・自分の「評判」をマネジメントする
・「本当は何者なのか」が関係ない世界

第4章 教育 ── 社会は、学歴至上主義から脱却する
・学歴以上に個人の才能を物語るもの
・学びと仕事が一本化する
・web3がもたらす「参加型教育」
・文系・理系を分けるナンセンス
・「下請け」に甘んじてきた技術者を解放せよ
・本物の「アントレプレナーシップ」を育てる

第5章 民主主義 ── 新たな直接民主制が実現する
・ガバナンスが民主化する
・衆愚政治に陥らないために
・既存の世界は、新しい経済圏を敵視するか
・加熱し続けるクリプトエコノミー
・「新たな支配者」が現れるか、「真の民主化」が叶うか
・DAOに見る、環境問題解決への道筋
・新時代のメリットを享受できる人、できない人

第6章 すべてが激変する未来に、日本はどう備えるべきか
・最先端テクノロジーが、日本再生の突破口を開く
・「参入障壁」という巨大ファイアーウォールを取り払う
・デジタル人材の海外流出を防げ
・「ネクスト・ディズニー」が日本を席巻する日
・なぜ日本では破壊的イノベーション企業が生まれないのか
・ムーブメントを一過性のブームで終わらせないために
・ドメスティックをデジタルへ、デジタルをグローバルへ


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